4.宝石の買付け
当たり前の話ですが、宝石を買付けるためにはそのための『場所』が必要になります。ブローカーたちがたむろしている街の中が即席の取引所となることもあれば、オーナーが悪質な業者を排除して一定の保証を与えてくれる取引所もあります。
前者はうまくいけば最もコストがかかりませんが、外国からやってきたバイヤーを騙そうとニセモノを売付けてくるブローカーが後を絶ちません。後者では買った宝石がニセモノだった場合に返品に応じてくれたり、その場で簡易な鑑別をしてくれたりするので安心度合いは路上売買よりも上ですが、保証料として一定のコミッションを支払わなければなりません。
今回私の旅に同行してくださったFさんはご自分で事務所を構えています。Fさんのご厚意により、私もそこで取引をさせていただきました。
Fさんの事務所は朝の8時半からです。時間になると、コヘトール(ブローカー)たちが代わる代わるに現れては石を見せてくれます。彼らは石の持ち主ではなく、持ち主から販売を委託されている仲買人ですので、のっけは売主が決めた最低価格の数割増しから、時に何倍もの金額を提示してきます。売主からのコミッションに加えて、最低価格と販売価格の差額が取り分になるからです。もちろん、コヘトールたちの言い値で買っていては話になりません。自分の相場観に照らして、彼らが腹に秘めているぎりぎりの価格を読まなければならないのです。ですので、買付けは相場に対する知識や審美眼を武器に戦う心理戦だとも言えるでしょう。
今回はパライバとサンタマリア・アクアマリンを主目的にやって来ましたが、せっかくなのでいろいろと見せてもらいました。
前提として、マジメで正直なブローカーもいることはいる、と断っておきます。しかしながら、相手を騙そう・吹っ掛けようとしてくるブローカーはその何倍もいます。
Fさんの事務所に来たブローカーも、アパタイトをパライバだと偽る、ただのトルマリンをパライバのロットに混ぜこませる、オイル含侵処理をしたエメラルドを無処理だと言い張る等、様々な手口で我々を騙そうとしてきました。
こうした手口に対抗するための道具のひとつとして、宝石屈折計があります。宝石は種類によって屈折率が異なるため、これを使いこなせるだけで騙されることがグッと少なくなります。もちろん、屈折計はあくまで道具で、宝石を見る眼が何よりも大事なのは言うまでもありません。
ここでの私の最初の取引は、サンタマリア・アクアマリンになりました。パッと見た瞬間、いい石だなと思ったのですが、値段が合わず。3割引きの価格を提示すると、少し渋った様子を見せた後ですぐにOKが出ました。渋って見せたのは、最初の提示価格を正当化するためのポーズだったのでしょう。
次回は閑話休題としてブラジルの食文化について記します。